レコード・コレクターズ4月号の初盤道は、「奇妙なマト1」という、これまでとはちょっと違う切り口から興味深い話を展開していた.
「奇妙なマト1」といえば、ボクがすぐに思い浮かべるのは、ザ・フー(The Who)のシングル・ヒットを集めた1971年リリースの編集盤"Meaty, Beaty, Big & Bouncy"のUKオリジナル(Track Record 2406 006)だ。
初盤道で「恋のピンチ・ヒッター」(Substitute)のUK盤シングルがとりあげられていた("Meaty, Beaty, Big & Bouncy"にはもちろんこの曲も収録されている)からすぐに思い浮かんだのかもしれないが、この「奇妙なマト1」の話はいずれ記事にしようとは思っていたのである。

このレコードの場合、「奇妙なマト1」といっても、「二つあるマト1のどっちが初盤かわからない」という話ではない。
というのも、確かにどちらも「マト1」なのだが、レーベル形状からどちらが初盤なのかは明らかだからである。
1971年リリースだから、初盤は当然、フラットでマットなこのレーベルである。

ところが、リムが凸になっているこのレーベルにも「マト1」が存在する。

「ずっとマト1だっただけだろー」と思ったあなた!
違うんである。
どちらも、George Peckhamのカッティングであるにもかかわらず、違うんである。
初盤のマト1はこうだ。

B面もマト1で、Runoutの刻印は次のようになっている。
Side A - PORKY 2406 006 A//1
Side B - PECKO 2406 006 B//1
それに対して、レイトのマト1はこうだ。

これまたB面もマト1で、Runoutの刻印は次のようになっている。
A PORKY PRIME CUT 2406 006 A//1 M
MASTER ROOM 2406 006 B//1 M
A//1やB//1の後のMはMaster Roomでカッティングされたことを示すものだし、B面にMASTER ROOMと手書きされているし、Master Roomカッティングであることは間違いない。
Peckhamが1970年代前半にMaster Roomに所属していたこととも符合する。
Discogsで確認すると、どうやらMaster Roomができたのは1973年のようなので、この2番目のマト1はおそらく1973年か74年にカッティングされたんじゃないかと思う(Peckhamは74年にI.B.C. Studiosに移っている)。
さらに、ボクは持っていないのだが、Discogsを見ると、Side AがPORKY A//1でSide BがMELY ! B//4という盤が存在するようだ。
これはおそらく、Side Bだけスタンパーが足りなくなって、Melvyn Abrahamsがあらたにカッティングしたんだろう。
要するに、こういうことだ。
1971年に初盤のためにPeckhamがカッティングをした(PORKY刻印盤)のだが、1973年か74年に大々的な追加プレスをすることになったとき、再び(そのときはMaster Roomに所属していた)Peckhamがカッティングを依頼された(A PORKY PRIME CUT刻印盤)。
このどちらもが、末尾A1/B1のマト1なのである。
同じPeckhamのカッティングなのだが、時間的にあいていることもあり、音はだいぶ違うので注意が必要だ。
ちなみに、初盤とレイト盤では、ジャケットもだいぶ違っている。
まず、表ジャケのタイトルのフォントが違う。

手前が初盤ジャケで、奥がレイト盤ジャケである。
見開きの内側左のクレジットもかなり違っている。

向かって右が初盤ジャケで左がレイト盤ジャケだ。
初盤ジャケはE.J.Day製だが、レイト盤ジャケはHowards Printers製なので、レイト盤ジャケではE.J.Dayのクレジットが削られている(Howards Printers製であることは裏ジャケ右下に書いてある)。
そのほか、楽曲ごとのプロデューサー・クレジットや疑似ステレオ関係のクレジットが初盤ジャケにはない。
あと、何故だか、カタログ番号"2406 006 SUPER"がレイト盤ジャケでは消されているが、裏ジャケにも背表紙にも同じカタログ番号が残っているので、何故消したのか謎である。
しかし、初盤と同じ人間がリカッティングしてまたマト1って、なんでこんなことが起こるんだろう?
実に奇妙なのである。