2018年08月12日

Rickie Lee Jones, The Magazineのこと

前回の記事からの流れで、今回はリッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones)のファースト・アルバムが取り上げられるに違いないと思っていた方も多いかもしれない。
(「そもそもブログの読者自体が多くないだろ!」というツッコミは無しね 笑)

実際、何年も前から掘ってはいるのだが、これがまた、一筋縄ではいかない部分があって、仮説の裏付けがなかなかできないんである。
ってことで、ファースト・アルバムについてはもうしばらく探求させていただくとして、今回はサード・アルバム"The Magaine"のことを取り上げよう。


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前回の記事で紹介したように、この作品は1984年リリースなので、日本盤は従来のノートレーベルのままだが、USワーナー盤は新しい透かしレーベルに切り替わっている。


手持ちのUS盤(Warner Bros. Records ‎9 25177-1)のMatrixを見てみると、次のように刻印されている。

Side 1: 1-25117-A-SH3 @ B-19480-SH3 TML-M SLM △7358
Side 2: 1-25117-B-SH4 @ B-19681-SH4 TML-S SLM △7358-X

@(実際には筆記体の小文字のaを模した独自のロゴだが、ここでは@で代用する)とTML-M/TML-Sは機械刻印だが、それ以外はすべて手書きである。

TMLは、Doug Saxが設立したカリフォルニアにあるマスタリング・スタジオ、The Mastering Labにおけるマスタリングを示すもので、TML-MとTML-Sはカッティング・レースによる違いだ。
もっとも、このレコードの場合は、Doug Saxではなく、Ron Lutterがカッティングを行っている(インナースリーブに書いてある)。

1-25117がレコード番号だから、そのあとのB-19480(Side 1)とB-19481(Side 2)はマスター番号だろう。
SH3/SH4がMatrix末尾なので、Side 1が3番目に切られたラッカーでSide 2が4番目に切られたラッカーということになるが、この時期、まぁ、このぐらいは初回に切られたラッカーだと思う。

SLM △_ _ _ _/ SLM △_ _ _ _-Xは、Sheffield Lab Matrixでメッキ処理が行われたことを示すものだ。
Sheffield Lab Matrixの工場は、西海岸ではカリフォルニアに、東海岸ではペンシルベニアに存在していたが、このレコードは当然カリフォルニア工場で処理されたと思われる。

@は、カリフォルニアにあるプレス工場Allied Record Companyのロゴのことなので、Allied Record Companyでプレスされたものであることがわかる。

ワーナーはもともと西海岸の会社だし、Matrix末尾SH1でないところに多少の不満は残るものの、西海岸産の手持ち盤もオリジナル初回盤と判定して良さそうだ。


さて、次は日本盤(Warner Bros. Records P-13023)の話である。
というのも、このレコードの日本盤、輸入メタルを使ってプレスされているからである(まぁ、セカンドの"Pirates"からそうなんだけどね)。

カッティングについては???ということも多いが、プレス品質と盤の材質については、日本盤は世界に誇ることができるほど優れている。
つまり、輸入メタルの日本盤は、音質的には本国盤オリジナルを越えることもあるのだ。
80年代はとくにそうである。

では、この"The Magazine"はどうなのか?
Runout情報を読み取っていこう。

当然ながら、日本盤のレコード番号の刻印はある。
見慣れた機械刻印だ。


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そして、輸入メタルであることを示す手書きの刻印がある。


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少し見にくいかもしれないが、"1-25117-A-INTL SET 5"とある。
おそらくINTLは国外向けを示すもので、その5番目のカッティングということだろう。
実は、写真に撮り忘れたが、このほかに"JAP"とも刻まれている(ちなみにSide 2は"JAPAN")。

TML刻印も、もちろんある。


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Side 1は、"TML-M"だ(ちなみにSide 2はTML-X)。

Matrix末尾が若干進んでいるものの、本国盤オリジナルを凌駕する音質への期待がムクムクと湧き上がってくる。

しかーし、実際に聴いてみると、残念ながら本国盤オリジナルは超えていない。
輸入メタル使用なんで日本盤も良い音ではあるのだが、やはり本国盤オリジナルに分があるのだ。

それは、もしかしたら、これのせいかもしれない。


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そう、手持ちの本国盤オリジナルは透けるのである(笑)
(USオリジナルがすべて透けるのかは知らない。)

いや、でも、むしろ、帯にしっかり書いてある、こっちの理由のほうが大きいか。


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そう、日本盤は、Side 2におさめられた組曲"Rorschachs"の"Theme For The Pope"が、フランス語のヴォーカル入りバージョンなのである。
US盤は、歌詞のない「ララ~ラララ~ラ~」というバージョンだ。

このせいで、US盤の歌詞付インナースリーブと日本盤の歌詞付インサートは少し違っている。


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"Theme For The Pope"の歌詞がないぶん、US盤のインナースリーブのほうには、スナップショットなどが掲載されているのだ。

ってことで、日本盤はUS盤とはバージョン違いの曲が収録されているわけだが、問題はどっちが先に作られたかということだ。

Side 2のMatrixを見てみよう。


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少し見にくいかもしれないが、"1-25117-B-RE1-INTL 6"となっている。
"RE1"が付いてるってことは、後から作ったのね・・・

そうそう、日本盤にももちろんSLM刻印があるのだが、US盤が△7358だったのに対して、日本盤は△7382である。
メッキ処理も、ちょっと後で行われたのね・・・

そんなわけで、"The Magazine"日本盤は、輸入メタルなれど「本国盤オリジナルを凌ぐ音質の日本盤」の仲間入りはできなかったのであった。
ラベル:Rickie Lee Jones
posted by 想也 at 16:53| Comment(0) | TMLの仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月04日

80年代USワーナーの罠

先日、なんとなくヤフオクを見ていたら、思わず目が点になってしまったことがある。

1979年にリリースされたリッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones)のファースト・アルバムのオークションだったのだが、USオリジナル「両面マト1完全初回」という謳い文句で出品されていたのが、なんと80年代半ばの再発盤だったのだ。

まぁ、確かに、再発でカッティングしなおされて両面マト1にはなってるんだが、ぜんぜんまったくこれっぽっちも初回ではない(笑)

USワーナーは、1983年頃にレーベル・デザインを変更した。
リッキー・リー・ジョーンズで言えば、サード・アルバムの"The Magazine"から新しいデザインのレーベルが使用されたのだが、「両面マト1完全初回」という謳い文句でヤフオクに出品されていたファースト・アルバムのレーベルは、この"The Magazine"と同じデザインだったのである。
初回であるはずがない。

もっとも、このUSワーナーの80年代半ばのレーベル・デザイン変更には、ちょっとした落とし穴がある。
日本盤のレーベル・デザインは本国と同時には変更されなかったからである。

たとえば、"The Magazine"で言えば、USオリジナルは、下部のワーナーロゴがなくなり、横線が消えて、大きな透かしロゴが散りばめられた、新しいレーベル・デザインである(便宜上「透かしレーベル」と呼ぶ)。

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それに対して、日本盤は、下部にワーナーロゴがあり、横線の入った、従来のレーベル・デザインである(便宜上「ノートレーベル」と呼ぶ)。

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日本盤のレーベル・デザインのイメージが頭にこびりついていると、レーベルによるUSオリジナルの判断の際に混乱してしまう危険性がある。
「これ透かしレーベルでよかったっけ?あれ?でも、もっと後までノートレーベルだった気がするなー」なんて、せっかく発見した初盤をレイトだと思ってリリースしちゃったりね。
「80年代USワーナーの罠」である(笑)
(いや、ただの思いつきのオヤジギャグです、すみませんσ^_^;)

いずれにせよ、USワーナーは1984年には、透かしレーベルにデザインを変更している。
有名なところでは、1984年1月9日にリリースされたヴァン・ヘイレン(Van Halen)"1984"のUSオリジナルが、すでに透かしレーベルである。

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では、透かしレーベルに切り替わったのは、正確にはいつなのか?
キリよく1984年から切り替わったのか?
それとも、1983年中のいつかの時点で切り替わったのか?

こういうときにわりと便利に使っているのが、GoldmineのRecord Album Price Guide(第3版)だ。Introductionの中にRecord Label Identifierという項目があり、16頁にわたって、主だったレーベルの変遷が非常に簡単にではあるがまとめられている。

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ってことで、早速ワーナーのところを見てみると、ノートレーベルが「1978-83?」で透かしレーベルが「1983?-present」となっている。
どうやら、「1983年中らしいが、よくわからん」ということらしい。

第3版が出版されたのが2003年、すでに15年も経っている。
「もしかして、新しい版には、いろいろ研究が進んで新しい情報が盛り込まれてるかも?」なんて思ったら、いてもたってもいられなくなって、昨年出版された第9版を買ってしまった。

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ところが・・・

Record Label Identifierという項目は、きれいさっぱり消えてなくなっている。

役に立たねー(涙)

もうこうなったら、わが家のレコード棚とDiscogsのデータベースを地引網探索である。

そんなこんなで、ここにたどり着いた。

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ロッド・スチュワート(Rod Stewart)"Body Wishes"が1983年6月10日リリースでノートレーベル。

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カーリー・サイモン(Carly Simon)"Hello Big Man"が1983年8月31日リリースで透かしレーベルである。

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ってことで、1983年7月あたりが境目になりそうな気がするんだが、どうだろう?

レコードって、リリース年はわかってもリリース月まではわからないものが多かったり、必ずしもカタログ番号順にリリースされているわけではなかったりするので、いろいろ難しいのだが・・・

ちなみに、ジョー・ウォルシュ(Joe Walsh)" You Bought It - You Name It"(うちのレコード棚にはありませんσ^_^;)が1983年10月9日リリースなのにノートレーベルだったりして、7月説と矛盾してしまうのだが、カタログ番号的にはカーリー・サイモンの"Hello Big Man"より前なので、プレス自体は7月までに終っていたもののリリースだけが遅れた(遅らせた?)のだと考えると、一応矛盾なく説明できる気はする。

さて、真相やいかに?
posted by 想也 at 17:11| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする