2019年02月26日

月の綺麗な夜に

月が綺麗な夜だった。

僕と彼女はベランダに出て、満天の星の海にぽっかりと浮かぶ満月を見上げた。

「ねぇ、ワイン飲もうよ。」

彼女は、そう言うが早いか、すぐさま階下に駆け出してゆく。

いつだってそうだ。彼女は思い立ったらすぐに行動にうつす。僕の意思なんか確かめもしない。

でも、それでいい。

それがいい。

僕だって、反対のときには、ちゃんとストップをかける。

彼女にしたら、「ストップをかけられないってことは賛成よね。」って思っているのかもしれないが、実はちょっと違う。

いや、違わないのかな?

彼女が喜ぶことなら、賛成ってだけなのだけれど。



「こんなに月の綺麗な夜は、やっぱりこれよね。」

振り返ると、いつの間にか戻った彼女が差し出していたのは、クーラーの奥にしっかりと隠しておいたはずのワインだった。

「そっ、それは・・・・」

「1990年のBAROLO。こんな良いワイン、いつ手に入れたの?」

僕は、思わず黙り込む。

「これを一人で飲もうなんて、絶対ずるいっ!」

「いや・・・一人で飲もうなんて、思ってなかったけど・・・」

「あっ、この前の私の誕生日のために用意してたのに、忘れちゃったの? だったら、今飲んじゃお! 来年の誕生日まで待てないっ!」

彼女はまっすぐに僕を見つめている。僕は、再び黙り込む。



<・・・そのワインはさ、君が僕のプロポーズを受け入れてくれたときのために用意したんだよ・・・>



僕は、黙ったまま、満天の星の海に浮かぶ満月を見上げた。

「ダメなら、ダメって言えばいいのに・・・」

背後で、彼女がつぶやく声が聴こえた。



「そのワインをあけたらさ・・・・」

僕は振り返って、彼女の目を見つめる。

「オレの嫁さんにならないといけない。」



彼女は一瞬、目を丸くしたあと、いつもの笑顔にもどって、

「いいよ。」

と言った。



月を眺めながら、二人でワインをあけていると、彼女がふっと歌いだした。

 ♪ Desperado,
 ♪ Why don't you come to your senses?
 ♪ come down from your fences, open the gate.
 ♪ It may be rainin', but there's a rainbow above you.
 ♪ You better let somebody love you.
 ♪ You better let somebody love you...ohhh..hooo
 ♪ before it's too..oooo.. late.

「手遅れになる前に、愛してあげる。」

歌い終えたあと、彼女が笑いながら言った。

「オレは、ならず者かよ?」

「ならず者になっても、愛してあげる。」

僕は彼女の肩をそっと抱き寄せる。

「ならず者にはならないさ。ならず者になったら、君を幸せにできないからね。」


ワイングラスに浮かんだ月が、僕たちにウインクするように、少し、揺れた。





♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪


<この記事は、旧ブログ「君がいる風景」から加筆修正のうえ転載しています。>
posted by 想也 at 21:20| Comment(0) | 音楽が奏でる情景 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月24日

Kate Bush, The Kick InsideのUK盤をめぐるあれこれ

前回の記事では、音質についてはまったく触れなかった。

Matrix末尾が若いわけだし、スタンパーも1桁なんで、当然のことながら、以前持っていたものより鮮度は高いのだが、何度か聴いていると、どうもそれだけではない気がしてきた。
そんなわけで、最終的な音質評価をするためには、じっくりとレイト盤と比較することが必要だと思ったのである。

今回のMatrix末尾1/1盤入手の結果、現在ボクの手元には、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)”The Kick Inside”のUK盤が5枚ある。


20190224-01.jpg


なんで5枚もあるのかというと、写真を見て気づく人も多いと思うが、ピクチャー・ディスク盤(以下PD盤という)が混じっているからである。
つまり、通常盤(EMI EMC 3223)が3枚とPD盤(EMI EMCP 3223)が2枚で合計5枚なのだ。

しかも、手元の5枚、Matrix末尾で言うと、通常盤は1/1のほか2/1と2/3、PD盤は4/2と6/5で、Side 1が1・2・4・6、Side 2が1・2・3・5と、このレコードのMatrixバリエーションのかなりの部分をカバーしている。
さらに、マザー/スタンパー情報を合わせて考えると、なかなか興味深い事実も浮かび上がってくる。

そんなわけで、このアルバムのUK盤をめぐるあれこれについて、ちょっと書いてみようと思ったわけである。


PD盤の種類


最初に、PD盤について書いておこう。
このアルバムのPD盤には、ファースト・エディション(以下、1st Ed.という)、セカンド・エディション(以下、2nd Ed.という)、サード・エディション(以下、3rd Ed.という)の3種類がある。
3rd Ed.は、透明なブラスティック・スリーブに入っていたそうだが、ボクは持っていない。

1st Ed.は、通常盤ジャケットと同じデザインのジャケットに、”LIMITED EDITION PICTURE DISK”と書かれた円形のステッカーが貼ってあるのが一般的だが、ボクの持っているものにはステッカーがない(ってことで、画像はDiscogsとかでご確認ください)。
剥がした痕跡もまったく見当たらないので(フルラミネートなので跡形なく剥がせないこともないだろうが、剥がしたときの疵とか僅かな痕跡くらいは残りそうなので)、最初から貼られていなかったんだと思う。

「通常盤ジャケットと同じなら入れ替えられたんじゃ?」と思う人もいるかもしれないが、それはない。
なぜなら、一つだけ違うところがあるからだ。


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<上が2nd Ed.のラミネートされていないジャケットで、下が1st Ed.のフルラミネート・ジャケット>


そう、背表紙には、Pの付加されたPD盤のカタログ番号が印刷されているのである。
ってことで、ボクの持っている盤は、ステッカーを貼り忘れたものなんだろう。
あるいは、もしかしたら、最初の出荷のときにはステッカーの製造が間に合ってなかったとか、ステッカーを貼ることになったのが小売店の要望を受けてのことで最初はついていなかったとかで、初回出荷分にはステッカーが貼られていなかったという可能性もある気がする。
でも、仮にそうだったとしても、これはステッカー付きのほうが、価値があるだろう。
とはいえ、ステッカーのためだけにもう一枚買う気にはなれないが(笑)

1st Ed.は、2nd Ed.と盤自体も少し違う。

Discogsを見ると2nd Ed.も3rd Ed.も1st Ed.と同じ1979年にリリースされたように書いてあるが、Matrixを見る限り、2nd Ed.は1982年以降のプレスである。
つまり、2nd Ed.や3rd Ed.のMatrixは、9時3時にマザー/スタンパーがある形式ではなく、YAX 5389-6-1-/ YAX 5390-5-1-というEMIが1982年頃から採用した形式で刻印されている。
したがって、9時3時マザー/スタンパーがある形式でMatrixが刻印されていれば、1st Ed.ということになる。


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Runoutの見にくい刻印に目を凝らさなくても、はっきり見えるところにも違いがある。
盤の下部に”ALL RIGHTS OF THE PRODUCER AND OF THE OWNER OF THE RECORDED WORK RESERVED. UNAUTHORISED PUBLIC PERFORMANCE AND COPYING OF THIS RECORD PROHIBITED. ”という記載がある(ボクの所有しているものにはSide 1にのみ、EMI RECORDS LIMITED. がある)が、2nd Ed.では、この後に”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”という記述が追加されている(実は、権利関係の警告文自体も、少し変更されて長くなっている)。
この追記がなければ1st Ed.である。


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<”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”がない1st Ed.>


2nd Ed.では、ジャケットに貼られたステッカーが楕円形になる。
背表紙のカタログ番号はPの付加されたPD盤の番号だが、通常の光沢ジャケで、ラミネート・コーティングはされていない。


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Matrixは上述したように、1982年頃からEMIが採用した形式で刻印されている。


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盤の下部のクレジットについては、”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”が追記されているのが2nd Ed.だ。


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<”MANUFACTURED IN THE UK BY EMI RECORDS LTD.”が追記された2nd Ed.>


Matrix情報とプレス時期


さて、いよいよMatrixによる音質の違いの話と言いたいところだが、その前に、各盤のRunout情報をまとめておきたい。
































































 Side 1Side 2
Mat.motherStamperMat.MotherStamper
通常盤①11R11T
通常盤②21GMP13GPL
通常盤③26RDO32RMM
PD盤①41RLH MO24RTT
PD盤②61-51-




ちなみに、Side 1のRunoutにあるメッセージは、Matrix末尾1では”REMEMBER YOURSELF”と正しいスペルだが、Matrix末尾2では“REMBER YOURSELF”とスペルミスをしている。Matrix末尾4では正しいスペルに戻り、Matrix末尾6になるともはやメッセージ自体が書かれていない。
(Matrix末尾3や5についてはわからないので、持っていらっしゃる方はぜひ教えてください。)

次に、手元の5枚についてそれぞれのプレス時期を推定しておきたい。

まずPD盤②については、上述したように1982年頃のプレスだと推定される。
PD盤①は、PD盤の1st Ed.がリリースされた1979年と考えてよいだろう(ちなみに、Side 1のスタンパーのうち3桁のほうはMatrix末尾3の続きだと間違えて打ったもので、2桁のほうが正しいものだと思う)。

通常盤①はファースト・プレスだから1978年2月のプレスでよいとして、あとは通常盤②と③である。
いずれもフルラミネートのジャケットなので、それほどレイトじゃないことは確かだ。

実は、通常盤①と②についてはインナースリーブが入れ替えられていたが、③についてはオリジナルらしいインナースリーブが付属していた。


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<写真だとわかりにくくなってしまったが、最下部に978とあり、1978年9月製造のCSだとわかる。>

これが最初からついていたものだとすると、通常盤③は、1978年9月か10月のプレスということになる。
時期的にいって、1978年11月12日リリースのセカンドの”Lionheart”に合わせてか、あるいはその前の先行シングル”Hammer Horror”のリリース(1978年10月27日)に合わせての追加プレスと考えるのが妥当だろう。

通常盤②はスタンパー・ナンバーの進み具合からして、セカンド・シングル” The Man with the Child in His Eyes”のリリース(1978年5月26日)に合わせての追加プレスと推測するのが妥当な線だと思われる。

以上のプレス時期の推定がそれほど大きく間違っていないとすると、5月頃にプレスされたと思われる通常盤②ですでに3桁スタンパーなわけだから、Side 1のMatrix末尾1から2への変更は、相当初期の段階で行われたものと考えられる。
Matrix末尾1/1の盤の数がかなり少ないのも頷ける。


Matrix違いによる音質の違い


Matrix末尾1/1の盤は、全般的には確かに鮮度の高い音がする。
冒頭のクジラの鳴き声の伸び、ケイトのボーカルの生々しさ、楽器の響きなど、随所でハッとするところがある。
低域がぐーんと沈みこみ、相対的に中高域が浮かびあがってくるのは、ボクのような低域好きにはたまらない。

ただ、Side 1に関して言うと、どうにも不満の残るところもあるのだ。
とくにA5 ”The Man With The Child In His Eyes”からA6 ”Wuthering Heights”にかけて、ストリングスの音が少し歪みっぽく聴こえる。
内周歪みに抗して、いかにストリングスを綺麗に響かせるかは、このレコードのカッティングにおけるエンジニアの腕の見せ所だと思うが、Matrix末尾1のカッティングがそれに十分に成功しているかというと、疑問なのだ。
まぁ、カッティングの問題ではなく、ボクが手に入れた盤に特有の現象だという可能性も、アナログの場合、なきにしもあらずではあるのだが・・・
(それから、もちろん、内周歪みに強いカートリッジを使用している場合には、また違った印象かもしれない。)

ただ、この点に関して言うなら、Matrix末尾2では確実に歪みっぽさは軽減している(あるいは他にもいろいろマスタリング=カッティング面でのブラッシュアップを感じる部分もある)。
そう思ってMatrix末尾1と2の盤面を比較してみると、A5のバンド幅が明らかに違うし、A6の溝の切り方も違っている。
同じレシピではカッティングされていないと思う。
(ちなみに、Matrix末尾2と4は―後者はPD盤なんで見にくいのだが―溝を見る限り、同じレシピでカッティングされているように見える。)

つまり、ボクは、マスタリング=カッティングの完成度という点では、Side1に関しては、Matrix末尾2に軍配をあげたいのである。

Side 2については、確かにB7 ”The Kick Inside”のストリングスにもSide 1と同様の問題はあるものの、それほど顕著ではないし、Matrix末尾2や3でこの点が改善された反作用なのか、全体的に低域が軽くなっている(Matrix末尾3のB3 “Oh To Be In Love”あたりではかなり軽い)のをどう感じるかで好みは分かれる気がする。
ボクは、Side 2に関しては、Matrix末尾1が一番好きだ。

そんなわけで、Matrix末尾2/1でスタンパー1桁の初期盤あたりが聴いてみたくて仕方がない衝動に駆られているのであるが、これは探すのがかなり難しそうだなぁ・・・
posted by 想也 at 22:37| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月20日

Kate Bush, The Kick InsideのUKオリジナル

ケイト・ブッシュ(Kate Bush)”The Kick Inside"のUKオリジナル両面Matrix末尾1のことは、ずっと欲しいと思っていた。

2000年頃に彼女のレコードのUKオリジナルを集め始めた当時は、Matrix末尾1/1の存在を知らず、まずMatrix末尾2/3を買った。
まぁ、そのときは2/2が一番若いという認識だったので、2/3が欲しかったわけではないのだが、ebayで賭けで買ってみたらはずれたのである(笑)

また賭けで買ってもはずれる確率が高そうだったので、今度はちゃんと2/2を買おうと思って探していたのだが、そうしたら、幸運にも2/1というやつを発見して手に入れることができた。
ボク的には新発見だったので、そのときは大喜びした。
しかし、新発見だと喜んだのも束の間、それほど時間をおかずに1/1が発見されたと聞いた。
ボクのコレクター生活、こんなことの繰り返しである(涙)

1/1の存在は聞いたんだけれども、すでに2枚持っているので(しかも買ったばかりだし)、目の色を変えて探しまくる気にもなれなかった。
それで、「まぁそのうち出会えるでしょ」ぐらいにのんびり構えていたのだが、そうこうするうちに、ずいぶんと時間が経ってしまった。

で、2年ほど前だったか、ディスクユニオンの高価買取リストに両面Matrix末尾1が登場した。
その買取価格を見たとき、ボクは目が点になった。桁が一つ違っているのである。
知らぬ間に、ここまで高騰していたとは・・・(トホホ)
このアルバムは確かに大好きだが、流石に数万出して買う気にはなれない。
ってことで、こりゃもう買えないなと諦めたのだった。

しかし、先日、ボクは偶然、イギリスのセラーが売りに出しているのを発見した。
盤はVG+だが、ジャケットは背表紙にダメージがあって裂けているし、貼り合わせも完全に剥がれているということで、売価はたったの9ポンドである。

ジャケットなんて、いま持ってるやつとチェンジしちゃったっていいし、場合によっては補修可能かもしれない。
ボクは速攻で発注していた。

もっとも、冷静に考えてみれば、ジャケボロの盤VG+だから9ポンドで適正価格なのかもしれない。
でも、まぁ、いいや。
もう買えないと思ってたレコードが、手にはいることになったんだから。
あとは、状態がどの程度か、それが一番の問題だった。

待つこと10日ほど。
リリース記念日("The Kick Inside"は1978年2月17日リリース)を2日ほど過ぎた昨日、レコードは無事到着した。

ジャケットは、セラーの言う通り、見事に裂けている。


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これ、このままだとダメージが拡大しそうなので、とりあえず補修してみることにした。
木工用ボンドを爪楊枝の先につけて、可能な限り背表紙を復元しつつ、貼り付ける。
まぁ、こんなもんでしょ。


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貼り合わせが剥がれてるのは、糊付けするかわりにフラッシュ・ディスク・ランチのぴったりサイズ・アウターに入れてやった。
このアウター、ちょっとラミネート・コーティング気分を味わえるので(気のせい? 笑)、"The Kick Inside"はもともとフル・ラミネート・コーティングだが、ダブル・コーティングで、遠目ではほとんどわからないくらいまで修復できた(笑)


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インナー・スリーブは、白いプレーンのものが付属していた。
英盤によくついているPATENT NO.とMADE IN ENGLAND入りのやつだ。


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「これが最初からついてたやつなのかなー?」と思ってひっくり返したら・・・


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絶対に入れ替えただろ(笑)
まぁ、いいや、オリジナルのインナー・スリーブがあるわけじゃないし。

さて、重要なのは盤のほうだ。
VG+とのことだったが、微かな擦り傷が少しある程度で、かなり綺麗である。
まぁ、かけてみると、チリパチが多少出るところがあるが、溝に潜んでいるゴミに起因するもののような気もするので、何度か洗浄してかけてればおさまってくるかもしれない。

Runoutには恋焦がれた(大袈裟だっちゅうの 笑)Matrix末尾1である。


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Matrix末尾両面1は比較的レアのようなので、両面1ならみんなそうなのかもしれないが、このスタンパー・ナンバーも嬉しかった。


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Side1はR、Side2はTで、いずれも1桁だ。

ボクはもうこれで満足である。
ラベル:Kate Bush
posted by 想也 at 22:51| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする