さて、考レコ学クイズ5の解答編である。
正解は、3の
「1968年にカリフォルニアのモナーク工場で製造されたセカンド・プレス」だ。
まぁ、レーベル画像だけでは、1968年産であることまでは判定できない(1968年~1973年の間に製造されたものであることまでしかわからない)のだが、択一問題だからいいのである(笑)
では、解説にうつろう。
まず、このブログの読者であれば、A&Mロゴの大きさからモナーク工場産であることを導けるはず(わからない方は、「Carpenters, Now & ThenのUSオリジナル」の記事
https://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2019-02-10をご覧ください)だから、答えは1か3に限定される。
問題は、ファースト・プレスかセカンド・プレスかである。
このレコードには、MONO盤(A&M Records LP-2001)もあるが、リリースされたのが1967年の後半のこと(リリース月までわからないのだが、録音は6月に行われている)なので、MONO盤にもセカンド・プレスがあるかどうかはわからない。
少なくともDiscogsには1968年以降に製造されたセカンド・プレスは掲載されていない。
一方、STEREO盤(A&M Records SP-3001)のほうは、1974年にレーベルがシルバー・グレイに切り替わるまでのブラウン時代でも、少なくともサード・プレスまでは区別する必要があるので、厄介だ。
ボクは、20年くらい前に、まず、ロックのオリジナル盤を集め始め、しばらく経ってからジャズのオリジナル盤にも手を出し始めたのだが、最初は、レーベルとMatrixしか気にしていなかった。
だから、このサード・プレスもオリジナルだと思って買ったんである。

ブラウン・レーベルでMatrix末尾は両面P1だ。

(これはSide 1のRunoutだが、Side 2も同じくMatrix末尾はP1である。)
しかし、「ブラウン・レーベルでマト1なんだからファースト・プレスに違いない」なんていうのは浅はかな思い込みにすぎない。
これは間違いなくサード・プレスである。
別にサード・プレスでも音が良けりゃいいんだが、このレコードは、サード・プレスじゃダメなんである。
このブログの読者であれば、ボクが最初に手に入れたのが、レーベルのA&Mロゴの大きさとP1というMatrix末尾から、コロンビア・レコードのピットマン工場プレスだということはすぐにわかったかと思うが、別にピットマン工場産だからダメというわけではない。
確かに、A&Mは西海岸の会社だから、モナーク工場産が良さそうだが、別にピットマン工場産でもアレがあればいいのだ。
しかし、このサード・プレスには、アレがないんである。

(サード・プレスの内ジャケットから、RVG録音であることのクレジット。)
そう、オリジナルがRVG(Rudy Van Gelder)録音でRVGカッティングである以上、レイトプレスで満足するにしても、最低限VAN GELDER刻印がRunoutになきゃいけないのだが、このMatrix末尾両面P1盤のRunoutにはVAN GELDER刻印がないのだ。
もうこれは絶対にダメである。
それに、ジャケットも違うのだ。
このレコードのオリジナル・ジャケットは、艶消しラミネート・コーティングされていて、吸い殻画像ともあいまって何とも雰囲気のある風情なのだが、このサード・プレスはラミネート・コーティングされていないのである。
ジャケットの内側も、オリジナルはカーキ色なのだが、サード・プレスは真っ白だ。


何もかもダメである。
ブラウン・レーベルだから1973年までのプレスであること(ゴールドマインの簡易レーベルガイドによる)は間違いないのだが、もう73年ギリギリのプレスに違いない。
そう思ってCSを見ると、住所がBeverly Hills, California 90213になっている。
A&MがBeverly Hillsに本拠を移転したのは1973年なので、ほら、やっぱり1973年産じゃないか。

そんなわけで、これはもう聴く前からダメなことがわかる。
実際、聴いてみても、RVGらしく鳴らないという以前に、マスターの劣化をひしひしと感じるもので、とうてい満足できるものではないのだ。
だから、すぐさまVAN GELDER刻印のある盤を探した。
A&Mは西海岸の会社だから、二枚目ということもあるしモナーク工場産がいい。
売れたレコードなので、VAN GELDER刻印のあるブラウン・レーベルでモナーク工場産、艶消しラミネート・コーティングのジャケットという限定で探しても、簡単に見つかった。

(クイズの出題に使ったレコードである。)

(ジャケットの表裏は艶消しラミネート・コーティングが施されている。)

(内ジャケットはカーキ色だ。)

(これはSide 1のRunout。Side 2のRunoutには、3002-3とある。)
Matrix末尾は4/3と微妙だが、VAN GELDER刻印はしっかりある。
音もRVGらしく鳴るし、悪くない。

(Side 1のRunoutにあるVAN GELDER刻印。Side 2にも、もちろんある。)
ってことで、この考レコ学クイズ5の出題に使ったレコードも、ファースト・プレスのバリエーションだと信じて、ずっとこれで聴いてきたのである。
しかし、他のA&Mのレコードを掘っている過程で、ボクはこのレコードがセカンド・プレスであることに気づいてしまった。
気づいてしまうと、やはり、ファースト・プレスが欲しくなる。
で、ebayで探してみたら、運よくモナーク工場産のWLPが出ていたので買ってみた。

もちろんVAN GELDER刻印ありで、Matrix末尾は2-RE/1と若い。
(メッキ処理番号も、4/3が△11031だったのに対して、WLPは△10835と若い。)

(Side 1のRunout。Side 2のRunoutには、3002-1とある。)
ジャケットは、艶消しのラミネート・コーティングで、内側はカーキ色だ。
裏側にはプロモ盤であることを示す”AUDITION RECORD”のスタンプがある。

「ちょっと待て。WLPだったら、レーベルが違うのは当たり前だろう。」と思った貴方。
貴方は正しい(笑)
まず、レーベル上のどこに注意しなければいけないかだが、A&Mのロゴの中、右下の角のところ、トランペットのベルのすぐ下のあたりである。
A&Mのブラウン・レーベルは、ここにRが付いていないものから、Rが付いたものへと変遷する。
もっとも、WLPのホワイト・レーベルでは、Rが付く時期がずれていて、通常レーベルではR付きがファースト・プレスになっても、WLPではあいかわらずR無しだったりする。
だから、WLPのホワイト・レーベルがR無しだからといって、通常レーベルもR無しがファースト・プレスということにはならない。
"A Day in the Life"の通常レーベルR無し盤は持ってないので、とりあえず状況証拠として手持ち盤を引っ張り出すと、SP-3005のナット・アダレー(Nat Adderley)”You, Baby”がR無しである。
SP-3001の”A Day in the Life”のファースト・プレスもR無しがあるはずだ。

CSを見てみると、WLPに付属していたCS上のA&MロゴはR無しである。
やはり、通常レーベルのファースト・プレスもR無しと考えてよさそうだ。

って、このアルバムの通常レーベルR無し盤て、別にレアでも何でもないので、Discogsで検索してもebayで検索しても、ざくざくと画像がひっかかる(笑)
"A Day in the Life"のファースト・プレスは、レーベル上のA&MロゴにRが付いていないものだと断定してよい。それじゃ、SP-3005の後、どこまでR無しがファースト・プレスかというと、これはジャケット上のA&Mロゴで判断できるんじゃないかと思う。
ジャケット上のA&Mロゴは、ファースト・プレスのときからレイトになってもずっと変わらないのだ。
”A Day in the Life”のジャケット上のA&Mロゴは、ずーっとR無しのままである。

(サード・プレスのコーティングのないジャケットでも、A&MロゴはR無しのままだ。)
だから、逆に、ジャケット上のA&MロゴにRが付いていれば、レーベル上のA&MロゴにもRが付いていたと考えるのが合理的だと思う。
Discogsでジャケット上のA&MロゴのRの有無を確認すると、ロゴにRが付くのは1968年だ。
SP-3009のSoul Flutes , Trust In MeまではR無しで、SP-3010のRichard Barbary, Soul MachineからRが付く。
おそらくレーベル上のA&MロゴもSP-3010以降がR付きだろう。
(ただし、レコードは必ずしもカタログ番号順にリリースされたとは限らないので、おおよその目安とお考え下さい。)
ってことで、”A Day in the Life”も、レーベル上のA&MロゴにRがついているのは、1968年以降のプレスということになる。
ちなみに、ボクの持っているものを1968年産と特定したのは、付属していたCS(もちろん掲載されているロゴもR付き)にSP-4141のLiza Minnelliまでしか出ていないからだ。


(R付きのA&MロゴとSP-4141のLiza Minnelliの部分の拡大。)
こうして、クイズの答えは、3の
「1968年にカリフォルニアのモナーク工場で製造されたセカンド・プレス」ということになるわけである。
音の方は、マトが若いからなのか、WLPだからなのか、ファースト・プレスだからなのかはわからないが、同じようにRVGらしく鳴るといっても、やはり鮮度感が違う。
厄介なことに、ちょっとどころじゃなく違う(笑)
セカンド・プレスしか持っていない人は、とりあえずファースト・プレスを買って聴いてみるべきだと思うよ。