2019年06月16日

George Winston, Autumnを掘る

ジョージ・ウィンストン(George Winston)を初めて聴いたのは、ボクも御多分に洩れず、1980年代半ばにテレビで流れていたトヨタのCM(山崎努さんがかっこよかった!)だったが、そのころから彼の音楽をいろいろ聴いてきたということはまったくない(笑)

90年代の終わりごろ、一時期ヒーリング・ミュージックばかり聴いていたことがあって、そのときにふっと思い出して"Autumn"と"December"のCDを買った。
彼のアルバムをちゃんと聴いたのはそのときが最初だ。

"December"が気に入らなかったわけでもないのだが、ジョージ・ウィンストンを聴こうと思うときは、ほぼ"Autumn"をトレイに載せていた。
いつしか、"Autumn"はボクの愛聴盤になっていた。

で、とりあえず、少し掘ってみている(笑)


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ずいぶんと色味が違うが、一番手前がUSオリジナル(Windham Hill Records WHS C-1012)、次がUS再発(Windham Hill Records WH-1012)、一番奥が日本初盤(Windham Hill Records WHP-28001)である。


このレコード、日本のレコード・ショップでは、日本盤はよく見かけるもののUS盤はあんまり見ない(よね?)。
だから、日本初盤はかなり前に手に入れていたが、いつも気にしていたのにもかかわらず、US盤はなかなか入手できなかった。

US盤が聴いてみたくて仕方なかったんだけどねぇ・・・

だって、ほら、日本盤をこうやってひっくり返すでしょ。


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で、右下のクレジットを見るわけさ。


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"ORIGINAL HALF SPEED MASTERING BY STAN RICKER"と書いてある。
日本盤は独自カッティングなので、もちろんハーフスピード・カッティングではない。
ってことは、US盤はハーフスピード・カッティングで、日本盤とはまったく違う音がするに違いないと思うでしょ?

とはいえ、送料がバカらしいほど安いレコードなので、ネットで買う気にもなれない。
レコード・ショップにでかけたときに、ボチボチ探すしかないんである。

で、しばらく前に、ようやくUS盤を見つけたのだが・・・


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写真では、なんか小さくて見えなくなってしまっているが、US盤は、表ジャケット右上に、白文字でWH-1012とある。

ひっくり返すと、日本初盤とほぼ同じで、右上に透過で白くロゴがあり、その上にはやはり白文字でWH-1012とある。


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で、右下のクレジットを見てみるわけさ。


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むむむ?
"ORIGINAL HALF SPEED MASTERING BY STAN RICKER"?
日本盤と同じじゃん。
なんで"ORIGINAL"がついてるの?

はい。
これを買ったときは、再発だと知りませんでしたσ^_^;
なので、"ORIGINAL"がついてることの意味にも気づいていませんでした。

Runoutを見ると手書きでいろいろ書いてあるUSカッティングだし、レイトかもしれないけど、まぁ、これでいいだろーと思って買ったんである。

聴いてみると、確かに、日本盤より良い。
良いんだけど、これ、ハーフスピード・カッティングの音じゃないよねぇ。。。

ここで初めてDiscogsで確認してみた。
どうやら、初盤はWHS C-1012の品番で、WH-1012は1983年?に配給がA&Mに移ったあとの再発のようだ。
ちなみに、ライナーを読むと、日本初盤も1983年リリースらしい。

で、最近、ようやくUSオリジナルを手に入れることができた。


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表ジャケット右上には、WH-1012ではなくC-1012とある。

ひっくり返すと、右上のロゴの色も違う。


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右下のクレジットはこうだ。


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"HALF SPEED MASTERING BY STAN RICKER"
"ORIGINAL"がついてない!

透明のポリインナーに白文字で印刷された”OTHER ALBUMS"だって、USオリジナルのほうはちょっと少ない。


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ん?

ちょっと?

”Autumn"の品番はC-1012である。
「ちょっと少ない」程度ではなく、初盤なら「半分以下」じゃなきゃいけないはずだ。

実際、ボクが入手したUSオリジナルのポリインナーには、C-1025の"December"まで載っている。
つまり、これ、1982年秋ものだったのである。

いやーな予感いっぱいにRunoutを見てみる。


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スタン・リッカー(Stan Ricker)のサインではなく、ジャック・ハント(Jack Hunt)のサインじゃん!
きっと初盤はスタン・リッカーのサイン入りなんだろーなー

それでも、Mobile Fidelity Sound Labでハーフスピード・カッティングしてるのは間違いない。
聴いてみると、確かに、ハーフスピード・カッティングらしい音で、余韻が音場をリアルに再現している。

もうこれでいいだろーと思いつつ、それでも、スタン・リッカー・カットの初盤が聴いてみたい衝動からは逃れられないのである。

ちなみに、USオリジナルだけ、透けます(笑)


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ラベル:George Winston
posted by 想也 at 21:47| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月15日

TMLの3人のエンジニア~Boz Scaggs, Silk DegreesのUSオリジナル

レコード・コレクターズ7月号の初盤道は、サンフランシスコでの掘削レポートだった。
なにやらフラッシュ・ディスク・ランチの300円コーナーや800円コーナーが巨大化したようなところで思う存分掘りまくったようで、羨ましい限りである。

掘削レポートでは掘り当てた初盤3枚が紹介されていたが、そのうちの1枚がボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)の”Silk Degrees”だった。
ボクにとってはまさに青春の1ページを彩る1枚である。
このレコードをかけながら、何人の女の子を口説いたことか(ウソです 笑)。

冗談はさておき、大学時代によく聴いたレコードで、とても思い入れの強いレコードであることは間違いなく、3年ほど前にレコード・コレクターズで「黄金時代のAOR」という特集が組まれたとき(2016年9月号)、ボクもちょっとだけ掘って、すでに初盤を手に入れている。


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(手持ちのUS盤3枚(すべてPC 33920品番)とレコード・コレクターズ7月号。)


このレコード、1976年3月にリリースされたUSオリジナル初盤の品番はPC 33920だが、翌1977年には価格改定があった関係でJC 33920という品番で再発されたうえに、1985年にはPC 33920というオリジナルと同じ品番で廉価盤がリリースされているのでややこしい。
(その間、1981年には、ハーフスピード・マスタリングのHC 43920という盤もリリースされている。)

まぁ、1985年の再発盤には裏ジャケットにバーコードがあるので簡単に判別できるし、翌年には別の品番で再発されたといっても、最初からバカ売れしたレコードなので(RIAAによって、リリースから4か月後の1976年7月にはゴールド、9月にはプラチナ認定されている)、バーコードなし初盤品番のレコードもゴロゴロしている。

ゴロゴロしているだけに、逆に、初盤確定が厄介だ(笑)

探検隊が掘りあてたMatrix末尾両面1Aの西海岸サンタマリア工場プレスを見つけることができればいいが、見つけるのはなかなか大変かもしれない。
とりあえず、ボクは3年前にそれほど苦労せずに手に入れたが、それはかなりラッキーなことだった気もする。
(3枚持っているUS盤のうち、ほかの2枚は、Matrix末尾が1AHとか1AJとかの2桁だしね。)


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(これはA面のRunoutだが、B面も同じく1Aだ。)


さて、このRunout画像を見て気づいたと思うが、このレコード、カッティングはThe Mastering Lab(TML)で行われている。
エンジニアは、ダグ・サックス(Doug Sax)だ。


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(ダグ・サックスによるカッティングであることは、インナースリーブにもクレジットされている。)


もっとも、Matrix末尾2桁におよぶ大量のカッティングのすべてをダグ・サックスが自分自身でやったのかと言えば、疑わしい。
実際、手持ちの3枚はまるで音が違う。
単に音がなまって違うというのではない。
カッティング・エンジニアが違うとしか思えないのである。

少なくとも、Matrix末尾1AJ/1AEという盤(ちなみに、これもサンタマリア工場プレスだ)のRunoutにはRhという手書きの刻印があり、ロン・ヒッチコック(Ron Hitchcock)のカッティングであることがわかる。


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(ロン・ヒッチコックのカッティングであることを示すRh刻印。)


個々の楽器が鮮度の高い音色で前に飛び出してくるダグ・サックス・カッティングの初盤に対し、ロン・ヒッチコック盤は、鮮度感やバランス感では遠く及ばないものの重厚さではむしろ凌いでいる感がある。
しかし、ボズは、こんな重厚な音でなくていいと思う(笑)

逆に、もう一枚のMatix末尾1AH/1AGという盤(ちなみに、これは中部のテレホート工場プレス)は、低域は軽めで重心は高いが、ヌケが良くてさわやかに広がる。
鮮度感は初盤に遠く及ばないが、このさわやかさは捨てがたい。
ボクは、しばしば、この盤のほうを聴きたくなることがある。
これ、マイク・リーズ(Mike Reese)のカッティングなんじゃないだろうか。

ここまで読んで、ハタと気づいた貴方は、このブログの熱心な読者に違いない(そんな人はいないだろー 笑)。
そう、TOTOのファースト(1978年)がリリース直後にリカッティングされた(あるいは、もしかしたら、最初から2種類のカッティングがあった)背景には、この盤でのTMLのエンジニアによる音の傾向の違いの体験があったのかもしれない。
(TOTOのファーストについては、こちらhttps://sawyer2015.blog.so-net.ne.jp/2017-09-02 をどうぞ。)

ロン・ヒッチコックとマイク・リーズ(もう完全に決めつけてしまう 笑)によるリカッティングがどの時点から行われていたのか、両者のカッティングの間に前後関係があるのかは不明だが、手持ち盤でいうと、ロン・ヒッチコック・カッティングの盤は、通常のPC品番ジャケットとは違うジャケットに入っていた。

ジャケットの違いについては、1A盤が入っていたもののみ完全なマットで、他の2枚は微妙に光沢がある(とはいえニス塗りのような光沢ではない)という違いがあるが、これは写真ではわかりにくいし、果たして初盤ジャケはこうだと言えるほどのものかわからない。

ただ、他の2枚のうち、1枚はあきらかにレイト・ジャケットだと判断できる特徴がある。
背表紙に価格表記がなく、裏ジャケットのロゴの上の品番表記からプリフィックスが消えているのである。
これは、コロンビア・レコードがJC品番に移行した際の一般的なジャケットの特徴だ。
(背表紙の品番表記がどうなっているのかは、その部分が破れて欠けているのでわからない。もしかしたら、JC品番なのかもしれないが、移行期にはPC品番でJC品番のようなジャケットもあったかもしれないとも思う。いずれにせよ、このジャケットに入っていた盤も、もちろんレーベル上の品番はPC 33920である。)


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(裏ジャケットの比較。上から、1A盤、1AH盤、1AJ盤(Rh刻印)。一番下のものには、背表紙にX698がなく、コロンビア・ロゴの上の品番にPCがない。)


品番表記からプリフィックスが消えているのはインナースリーブも同じだ。


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(上が1A盤で、下が1AJ盤(Rh刻印)。)


ちなみに、インナースリーブは、厚手の紙を使ったしっかりしたものと、ペラペラの薄い紙のものがあるが、サンタマリア工場産のものにはPCプリフィックスが消えているものでも厚手のインナースリーブがついていたのに対し、テレホート工場産のものは薄手だったので、時期的な違いではなく、場所的な違いだという気がする。

おっと話がずれた。
今回の話題は、ボズ・スキャッグスの”Silk Degrees”では、TMLの当時の3人のエンジニアの音の違いを楽しめるんじゃないか、という話だ。
エサ箱に安く転がっているレコードなので、興味のある方は、ぜひお試しくださいな。
posted by 想也 at 15:46| Comment(0) | TMLの仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月10日

REでもマザー違い?

昨日紹介したジョー・ザヴィヌル"Zawinul"のUSオリジナル(Atlantic SD 1579)について、記事を書いたときにはあまり気にしていなかったことだが、考えてみるとちょっと奇妙な点があることにさっき気づいたので追加記事を書いておこう。

まず基礎知識の確認である。
アメリカの大きなレコード会社は、東海岸、西海岸、中部にそれぞれプレス工場(自社工場や系列会社工場の場合もあれば独立系のプレス会社と契約している場合もある)があるが、たくさんのラッカーを切って各工場に割り当てるパターンと、ラッカーを切るのを最小限に抑えて各工場にマザーを配るパターンがある。

前者の代表例はコロンビアだが、アトランティックは後者の代表例である。

RunoutのMatrixを見ると、たとえば、東海岸のPR工場は末尾A、西海岸のMO工場は末尾AA、中部のRI工場は末尾AAAというように、同じラッカーから作られたマザーが配られている。
BとかCとか追加でラッカーが切られれば、PR工場には末尾Bや末尾C、MO工場には末尾BBや末尾CC、RI工場には末尾BBBや末尾CCCのマザーが配られる。

もっとも、このパターンがいつ頃から定着したのかは必ずしも判然としない。
ただ、MO工場については、少なくとも1969年の時点で、このパターンが使われることがあったことは明らかである。
Led Zeppelin IIのRLカットのMO工場産のMatrix末尾がAA、BB、CCだからである。

そうすると、このMO工場産"Zawinul"のMatrix末尾は、1971年リリースだから、(Discogsを見るとAやBが出ていないので、AやBはボツになって、Cから使われたんじゃないかと思うが、確証はない)CCでなければならないはずなのだが、実はこうなっている。


20190609-6.jpg


C-REである(全体としては、ST-A-702093C-REとなっている)。
B面も同じで、うちのはJ-REとなっている(B面はHが多いようだが、うちのはJである)。

さて、このC-RE、CCと同じ意味なんだろうか?
通常、末尾にREがつくのはリカッティングされた場合だと思うのだが・・・

もしかして、CCとは意味が違って、やはりリカッティングされているんだろうか?
そしたら、大げさに音が違う可能性がある(場合によってはリミックスの可能性だってある)。

なんだか気になって仕方なくなってしまった。
まぁ、REが薄いというところからして、CCと同じ意味なんだと思うのだが・・・

そんなわけで、PR工場産やRI工場産のこのレコードでMatrix末尾Cのものをお持ちのみなさま、お手数ですが、うちのMO工場産のRunout画像と見比べて、同じラッカー由来のものなのかどうか判定の結果を教えてくださいませ。

判定しやすいように、末尾より前の部分の画像も載せておきます。


20190609-7.jpg


また、このレコード、ジョージ・ピロス(George Piros)のカッティングで、AT-GP刻印もあるので、その画像も載せておきます(もちろんA面のものです)。
(同一ラッカー由来なら、手書き刻印も同じのはずです。)


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posted by 想也 at 19:29| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする