2019年07月13日

Promoをめぐる憂鬱~Kansas, Point of Know ReturnのUSプロモ盤

なんでもかんでもWLPが欲しいわけではない。

カンサス(Kansas)なら、"Leftoverture"と"Point of Know Return"はどうしても欲しいと思っていたが、他のはそうでもない。

まぁ、思い入れの問題である(笑)


先日の記事に書いたように”Leftoverture"のWLPは手に入れたので、次は、"Point of Know Return"だ。

ってことで、これまた送料だけが高い買い物だが、DiscogsでUSオリジナル(Kirshner JZ 34929)のWLPを買ってみた・・・


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はずだった。

しかし、ジャケットから盤を取り出してみると・・・


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なんじゃこりゃぁ!?



もちろん、WLPを作らないで通常盤をPromo盤として配るということもあるのだが、"Point of Know Return"については、DiscogsにちゃんとWLPの画像が出ている。
WLPは、確かに存在しているのである。

もっとも、"Point of Know Return"の場合、カスタムレーベルを使用しているので、ホワイトレーベルではなく、カスタムレーベルにPromoであることを印刷したものを使用するのが本来の姿だったのかもしれない。
(つまり、WLPはミスレーベルということ。)

実際、カスタムレーベルに"DEMONSTRATION NOT FOR SALE"と印刷されたPromo盤の画像も、Discogsで確認できる。

しかも、登録情報が正しければ、WLPもカスタムレーベルPromoも、サンタマリア工場産のようである(ボクの手持盤の情報も含めて、おそらく、Matrix末尾1Eと1Fがサンタマリア工場に送られたと考えられるからである)。

そうだとすると、ホワイトレーベルを使ってしまったのは、ミスだった可能性がさらに高くなる。

だから、WLPでなくてもいいんだが、でも、ただのカスタムレーベルではダメで、"DEMONSTRATION NOT FOR SALE"と印刷されてなきゃーいけないんである(涙)

Timing Stripがジャケットに貼られているから、Promoとして配られたものには違いないんだろうけど、中に入ってるのが通常盤じゃ、意味がないのだ。

それでも、気を取り直して、送り溝をしげしげと眺めてみる。

Matrix末尾は1A/1Aだ。
少し、気持ちがあがる。

さらに、うっすいがピットマン工場産を示すP刻印が確認できた。
通常盤とはいえ、ピットマン工場産の1A/1Aを探すのは難儀しそうだから、まぁ良しとするか・・・

いや、でも、待てよ?
そりゃ、確かに、こいつ、外見上は通常盤にしか見えないとしても、中身もただの通常盤かどうかはわからない。

WLPでもカスタムレーベルPromoでもいいが、ピットマン工場産のPromo盤が存在していてはじめて、そうでないものをただの通常盤と言えるのだ。

もし、ピットマン工場産のWLPもカスタムレーベルPromoも存在していないとしたら、見た目は通常盤でも中身はPromo盤(つまり、レーベルは通常盤と同じものが使用されたが、プロモ盤として製造されたということ)だってこともありうるだろう。

まぁ、「WLPって言っても、所詮初期盤の一種」と言ってしまえば、どっちでもいい話ではあるんだが(笑)

しかし、ボクとしては、どっちでもいい話にはしたくない。
(実は、Promo盤は、製造工程―盤の材質も含む―が通常盤とは少し違っていたんじゃないかと疑っているのである。)

だから、ピットマン工場は、このレコードについてはWLPやカスタムレーベルPromoを作らず、ピットマン工場産には、この通常盤レーベルのPromo盤しか存在しないとすれば、ボクの満足度は格段に上がるのである。

幸い、Discogsにも、ピットマン工場産のWLPやカスタムレーベルPromoの情報は登録されていない。

きっと、存在しないに違いない。
うん、そうに違いない。


って、ホントは存在するんだろうな・・・
posted by 想也 at 23:34| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月09日

Kansas, LeftovertureのUSオリジナル その3

"Leftoverture"については、とりあえず「その2」で終る予定だったのだが、最後に書いた「いまだ解けない謎」について、ちょっとメモしておきたいことができたので、追加記事を書いておきたいと思う。


まず、「いまだ解けない謎」を確認しておこう。

前の記事にも書いたが、英語版WIKI上では、このレコードの発売日は1976年10月21日ということになっている。

この発売日情報が正しく、かつ、WLPのジャケットに貼られたシール上の8/76が1976年8月を意味しているとすると、このレコードについては、発売日の2か月も前にラジオ局にWLPが配られたことになる。

発売日の2か月前ってのは、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。
どうにも腑に落ちない。
やっぱり、発売日は76年8月か、遅くても9月で、さすがに10月も末ってことはないんじゃないか。

これが未解決の疑問だった。


で、これは前の記事を書いた後に気づいたことなのだが、RIAAのWEBサイトを見ると、"Leftoverture"の発売は、なんと1976年1月30日になっているのである。

1月30日リリースなら、ヒットチャートを駆け上がっていく過程で配られたと考えれば、WCAS(マサチューセッツ州ケンブリッジのAMラジオ局かなぁ?)が76年8月に入手したとしても、辻褄が合う。
辻褄は合うのだが、さすがに9か月近くも遡るとモヤモヤする(笑)

そんなときに、ツイッター上でサボテン・レコードさんから情報をいただいた。
チャートの動きから推測するという目から鱗の情報である。

"Leftoverture"は、ビルボードの11月6日付のチャートに初登場96位であがっているという。
ここから、10月21日発売というのが正しいんじゃないかとのこと。

この推測で一番解せなかったのは、96位とはいえ、リリース後わずか2週間でチャート入りするもんだろうかということだ。
前作"Masque"はゴールドディスクを獲得しているとはいえ、それは77年12月16日のことで、これは"Leftoverture"のヒットにつられて前作も売れた結果だろう。
”Leftoverture"のリリース当初は、まだブレイク前で、リリース直後にチャートに登場するほどの人気はなかったんじゃないだろうか。

サボテン・レコードさんからは、1975年9月発売の前作"Masque"が12月にチャート入りしているからすでにそれなりの人気はあったはずで、リリース後2週間でのチャート入りも必ずしもおかしくはないのではないかとのご指摘もあり、そういうこともあるかもしれないとも思ったのだが、その反面、やはり、"Leftoverture"の頃はチャート入りに3か月くらいはかかったんじゃないかという気もした。

ボクとしては、10月21日発売というのは、どうにも遅すぎる気がしてならないのである。
かといって、1月30日というのはどう考えても早すぎる気はするのだ。


録音年月とかがわかれば、発売日の推測に役立つかと思ってWIKIを見てみると、次のようになっていた。

Kansas        1973年9月録音    1974年3月8日発売
Song for America  1974年12月録音    1975年2月発売
Masque        1975年夏録音     1975年9月20日発売
Leftoverture      録音日不明      1976年10月21日発売
Point of Know Return 1977年6月~7月録音  1977年10月11日発売

なんで”Leftoverture"だけ不明なんだ?
それはまぁいいとして、ファーストをのぞけば、他のアルバムは発売日の2か月前に録音されている(”Point of Know Return"の発売日を10月11日だとすると録音は3か月くらい前になるが、RIAAのWEBサイトでは9月1日とされているので、そちらを基準にすると2か月前になる)。
まぁ、そんなもんか。
だとしたら、10月21日リリースの”Leftoverture"の録音は8月ということになる。
どう考えても、8月にWLPができていて、ラジオ局に配ることができたとは思えない。

WIKIの言うとおり、10月21日リリースだとすると、WCASのシールの上に書かれた8/76がどうやっても説明できないのである。


少し視点を変えて、チャートの推移から推測するというサボテン・レコードさんのアイディアを、応用してみよう。

ビルボードの最高位は、”Leftoverture"が1977年4月2日の5位、"Point of Know Return"が1978年5月6日の4位である。

https://www.billboard.com/music/kansas/chart-history/billboard-200


RIAAのWEBサイトによると、"Point of Know Return"は1977年10月11日にゴールド認定されているので、WIKIが正しいとすると、発売と同時にゴールド認定ということになるが、RIAAのWEBサイトでは、1977年9月1日リリースということになっている。

10月11日リリースだとしてビルボードの最高位までに7か月、9月1日リリースだとすると8か月かかっていることになる。

”Leftoverture"が"Point of Know Return"より速いチャートの動きをしたとは考えられないので、まったく同じだとしても、最高位の4月から7か月~8か月遡れば、リリースは1976年8月か9月ということになる。

やはり、”Leftoverture"のリリースは、1976年8月かどんなに遅くても1976年9月で、それより後のことはないんじゃないだろうか。

ってことで、ボクは、WIKIよりも、この手書きのシールを信じたいのである(笑)


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posted by 想也 at 23:10| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月07日

Kansas, LeftovertureのUSオリジナル その2

さて、カンサス(Kansas)“Leftoverture”についての続編である。

まずは、初盤鑑定に関する話だ。

オリジナルのレコード番号がPZ 34224であることは前回書いたが、初盤鑑定にとって重要なことがもう一つある。
実は、オリジナルのほう(つまり、80年代の再発ではなく、レコード番号がJZ 34224にかわるより前のもの)のPZ 34224の盤でも、ジャケットが二種類あるのだ。


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手持ちの4枚(すべてPZ 34224)を並べた写真を見ると、手前の二枚が少し緑っぽく、奥の二枚は青が強く出ているが、この点は地域差か個体差かはっきりしない。
手前の二枚は東海岸のコロンビア・ピットマン工場産(一枚はテレホート工場産の可能性があるが、その点は後で説明する)で、奥の二枚は西海岸のコロンビア・サンタマリア工場産なので、地域差の可能性もあるからだ。

でも、いずれにせよ、この微妙な色味の違いはあまり重要ではない。
重要なのは表面の加工の違いである。
完全な艶消しのもの(ただしテクスチャーではない)と艶有りのもの(ただしニス塗りほど光沢はない)が存在するのだ。


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(同じ光をどう反射するかで違いがわかるだろうか。向かって右側がWLPのジャケットで艶消し。左側がレイトの艶有りジャケット。)


比べてみると、ジャケット・デザインとあいまって、完全な艶消しがオリジナルだという思いが強くなるが、WLPがこの艶消しジャケットだったということにくわえて、艶有りのほうがレイトだという根拠がもう一つある。

PZプリフィクスのときには背表紙下端にあったX698という価格表記が、JZプリフィクスになると消えるのだが、この艶有りジャケットは、PZプリフィクスではありつつも、X698が消えているのだ。


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(上が艶有りジャケットで、下が艶無しジャケット。背表紙上端には、いずれもPZ 34224とある。)


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(上が艶有りジャケットで、下が艶無しジャケット。艶有りの方の背表紙下端にはX698がなくなっている。)


つまり、JZプリフィクスへの移行直前のジャケットだと考えられるのである。

また、この艶有りジャケットに入っていた盤はサンタマリア工場産だったが、Matrix末尾自体は、同じサンタマリア工場産の艶消しジャケットに入っていた盤と同じく1E/1Dだったものの、12時方向に確認できるスタンパーを表すと思われる記号が、E2/F2と進んでいた(艶消しのほうはA6/B2)。
これもまた、艶有りジャケットがレイトであることを示す情況証拠である。


ジャケットの話はこのぐらいにして、工場違いの話に移ろう。

ボクが持っている4枚のうち、2枚が西海岸のコロンビア・サンタマリア工場産(ともにMatrix末尾1E/1D)ということと、WLPが東海岸のコロンビア・ピットマン工場産(Matrix末尾は1B/1A)というのははっきりしている。
しかし、もう一枚は、はっきりしない。

というのも、Side1のMatrix末尾は1Cで中部のコロンビア・テレホート工場産を示すT1の手書きがあり、Side2のMatrix末尾は1Bでピットマン工場産を示すP刻印があるのだ。

これはおそらく、ピットマンでスタンパー不足が生じたためにテレホートから送られたスタンパーが使われたか、逆に、テレホートでスタンパー不足が生じたためにピットマンから送られたスタンパーが使われたかのいずれかだろう。

いずれであるかを断定できる根拠はないのだが、レコードの売れ行きが想定外だったために生じた事態だとすると、量産の必要性は中部より東海岸のほうが大きかったと思われ、スタンパー不足が生じたのはピットマンの方だったんじゃないかと思うのだがどうだろう?

ちなみに、RIAAのWEBサイトで確認すると、”Leftoverture”は最終的に400万枚を売り上げているが、1976年10月リリース後、1977年1月にゴールドディスク、同年3月にプラチナディスクを獲得している。
かなり急激なヒットだが、前作”Mask”は1977年12月にようやくゴールドディスクで、これは”Leftoverture”のヒットによって過去作も売れた結果だろうから、この“Leftoverture”のヒットは、まったく想定外のものだったと思われる。


まぁ、どの工場産であっても、このレコードはSTERLINGのジョージ・マリノ(George Marino)によってマスタリングされているので、STERLING刻印さえあれば、一定水準以上の良い音で聴ける。


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(ジョージ・マリノのマスタリングであることは、インナースリーブに明記されている。)


で、もちろん、この時期のコロンビア系ならピットマンがオリジナル工場だろう。

しかし、コロンビア系の場合、工場によって違うラッカーが送られる。
このレコードだと、Discogsで確認できる限りで、ピットマンであればMatrix末尾1B/1Aと1B、テレホートなら1C/1C、サンタマリアなら1E/1Dのラッカーが送られた。

これらのラッカーは、おそらくジョージ・マリノによってまとめて切られたものだと思われるが、音はかなり違っている。
目で見てもはっきりわかるのは、Side2の1A(あるいは1D)と1Bの違いで、送り溝の幅が前者では11ミリ強あるが、後者では8ミリ弱しかない。


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(1Aの送り溝。11ミリ強ある。)


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(1Bの送り溝。8ミリ弱しかない。)


送り溝が3ミリ以上違うということは、カッティングがそこそこ違っているということで、当然、音も違うはずだ。
まとめて複数のラッカーが切られる場合、多少の音の差があっても許容範囲ならオッケーということだったんじゃないかと思う。

1C/1B盤もボクの推測通りピットマン工場産だとすると、Side2の1Aと1Bの音の違いは、工場による違いはないことになるので、純粋にカッティングによる違いということになる。
で、確かに、工場による音の違いとは傾向の異なる音の違いだと思う。

つまり、コロンビア系の場合、工場違いの音の差にくわえ、カッティング違いの音の差もかなり大きい場合があり、どこの工場の盤が一番好みの音で鳴るかは、レコードによってケースバイケースで判断するしかないんじゃないかと思うのである。

で、この”Leftoverture”はどうだったかというと、確かに、鮮度の高い音が切れ良く飛び出してくるという点ではピットマン工場産のWLPに軍配が上がるのだが、ボクの好みからすると、低域が少々タイトすぎる。

高域と低域のバランスや横の広がりまで加味した全体的な印象では、”Carry On Wayward Son”から始まる Side 1では、横の広がりと低域の重さのバランスが素晴らしいサンタマリア工場産の1Eが捨てがたい。

Side 2では、低域の重さとほどよくタイトな鳴りが実に心地良いピットマン工場産の1B(プレスはテレホートの可能性もないわけではない)も魅力的だ。

こうした音の印象は、工場違いによるところもあるだろうが、カッティング違いに由来するところも大きい気がするのである。


さて、最後に、いまだ解けない謎を一つ(笑)


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WLPに貼ってあったこのシール、WCASというのはラジオ局の名称だろうが、8/76というのはやっぱり76年8月ってことなんだろうか?

“Leftoverture”のリリースは、76年10月21日ということになっている。
ってことは、このWLP、2か月も前にラジオ局の手に渡ってたってこと?

そりゃまぁ、確かに、こういうWLPは、リリースに先駆けて配るもんではあるだろうけど、2か月前っていうのは、いくらなんでも早すぎない?
posted by 想也 at 20:56| Comment(0) | アナログ・コレクターの覚書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする