その晴天に誘われて、30分ばかり散歩にでかけることにした。
外に出ると、穏やかな春らしい空気が心地良い。
いろいろ不安なことも多いのだが、運動になるように適度に足を速めながら歩いていると、心は次第に穏やかになっていった。
ユウがいる生活がある。
音楽がある生活がある。
それだけで十分に幸せだと思う。
そういえば、昔、「娘も欲しかった」というボクに、「それなら私のことを娘だと思っていいよ」なんて言ってくれた子がいたな。
結婚してすっかり疎遠になってしまったが、たまに彼女が顔を見せてくれるような生活だったら、完璧だったな。
まぁ、でも、一つ願いが叶えば、新しい願いがうまれるのが常なわけで、一つぐらいは叶わない願いを抱えているほうがいいのかもしれない。
ボクの場合、どうしても守りたいと思うものは、そんなに多くない。
たとえ日常がどんどん非日常化していったとしても、どうしても守りたいものを守るだけなら、そんなに難しくはない気がした。
いろいろ不安なことは多いが、何とか守るべきものは守りぬけるだろう。
でも、ボクがしなければならないことは、それだけじゃない気がした。
津久井やまゆり園の事件が起こったとき、とても強く思ったことがある。
どんな人の命も等しい価値をもつ。
これは疑っちゃいけない社会の前提なんだと思う。
しかし、人がもって生まれる能力には大きな差があって、自分の能力だけでは普通に生きていけない人がいる。
ユウのように・・・
どんな人の命も等しい価値をもつのなら、自分の能力だけでは生きてはいけない人もまた、等しく尊重され、普通に生きていくことができなくっちゃいけない。
それを保障することは社会が担わなければならない役割のひとつだと思う。
そうだとしたら、人は、その能力に応じて、社会に対して責任を負っているんじゃないか。
ボクは、ボクの能力に応じて、社会に責任を負っているんじゃないか。
ただユウだけを守っていればいいってわけじゃない。
ボクはボクにできることを、精一杯やらなくっちゃいけない。
穏やかな春の陽気の中を散歩しながら、そんなことを考えていた。
よし、がんばろう!
