夕べ、夢を見た。
朝起きたときに鮮明に覚えていたから、夕べではなく、明け方に見た夢だったのかもしれない。
それは、逢うこともなくなって久しい彼女の夢だった。
彼女のことが好きだった。
それが恋だったのかどうかは、いまだに定かではないが、とてもとても好きだった。
僕たちは恋人ではなかったが、うまく説明することができない、なんだか少し特別な関係だった。
夢の中の彼女は、最後に逢ったときから確実に歳を重ねているように見えた。
外見も、物腰も、話し方も。
それでも夢の中の僕たちは、あの頃と少しも変わらない関係で、たわいもない話で笑い合った。
そこには、あの頃と同じ関係がまた始まるんじゃないか、と思わせる空気が流れていた。
少なくとも、僕はそう感じていた。
僕たちは、彼女に誘われるままに、彼女の部屋に向かった。
あの頃と同じ関係ではなく、あの頃とは違う新しい関係が始まるのか?
僕は少しドキドキしながら、彼女と並んで歩いた。
彼女の部屋にはすぐに着いた。
鍵がかかっていないらしく、彼女はそのまま玄関のドアをひく。
すると、奥から声が聴こえた。
「おかえり。」
男の声だ。
「ただいま。」
彼女は奥にそう応えたあと、
「どうぞ。あがって。」
僕に向かって、そう言った。
リビングでは、彼女と同い年ぐらいの男が、立ち上がって僕らを迎えた。
男の顔には困惑があった。
僕を見たあと、説明を求めるように彼女を見た。
「この人は、私にとって特別な人なの。あなたと結婚しても、ずっと特別な人なの。だから、あなたに紹介しておかなきゃいけないと思ったの。」
男がどんな顔をしていたかはわからない。
僕はただ、彼女の真剣な顔にみとれていた。
凛とした彼女は、とても綺麗だった。
あの頃と同じ関係で、あの頃とは違う関係を、彼女は始めたいのだ。
あぁ、そうか。
それが僕の望んでいた関係だったのか。
いつの間にか夢からさめていた僕は、ぼんやりとした頭で、そう思った。
♪「音楽が奏でる情景」は、好きな音楽にインスパイアされて書きとめた(たぶん 笑)フィクションです♪