2021年03月19日

ねじれ~『ロンド』をめぐる考察

ここに2枚のオフコース『ロンド』(ETP-10343)がある。


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1977年11月から日テレ系で放映されたドラマ『ひまわりの家』の主題歌だったが、1.5万枚ほどしか売れなかったので、オフコースのファン以外はあんまり知らないかもしれない。
でも、しっとりとしたなかなかの佳曲である。


2枚のうち、1枚は見本盤だ。


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もう一枚は、通常盤である。


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見本盤のSide 1のマト/スタンパーは、1S 3だ。


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3だとわかるように撮ろうと努力したのだが、なかなかうまくいかず、7のように見えるが、3である。
Side 2のほうは、1S 1だ(写真は割愛)。


通常盤のほうのSide 1のマト/スタンパーは、1S 12である。


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2の前の1がわかりにくいが、これでも苦労してなんとかわかるように撮れたほうなのでご容赦願いたい。
Side 2のほうは、1S 9だ(写真は割愛)。


ここまでは、特に不可解なところはない。

しかし、この二枚、PMと合わせて考えると、ちょっと不可解なのである。


見本盤のPMは7-YGなのだが・・・


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通常盤のPMは7-Xなのである。


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『ロンド』は見本盤のレーベルを見ればわかるように1977年11月20日発売だが、PMから、通常盤は発売日前月の10月にプレスが開始されたのに対して、見本盤は発売日当月の11月にプレスされたということがわかる。

まぁ、通常盤より見本盤のほうが後からプレスされるというのは、特に珍しいことではないかもしれない。

それに、このレコードの場合、結果的にはそれほど売れなかったが、ドラマ主題歌ということで、売れることを見込んで初回プレスの枚数を増やしていた可能性はある。
そうだとすると、早めにプレスを始めなければ間に合わない。
一方、見本盤のほうは、ドラマ主題歌ということで早めのプロモーションは不要だっただろう。
このレコードについては、通常盤より見本盤のほうが後からプレスされる条件が整っていたともいえる。

問題は、スタンパーとの関係である。

見本盤のほうがプレスが後なのに、スタンパーが若い。
通常盤のほうが先にプレスされているのに、スタンパーが進んでいる。
問題は、このねじれだ。

「見本盤用に最初に作ったスタンパーをとっておいたってだけだろー」と思った貴方、その根拠を説明できるだろうか?
ボクにはできない。
何故最初に作ったスタンパーを見本盤用にとっておく必要がある?

見本盤のスタンパーが若いのは、普通は通常盤より先にプレスされるからである。
だから、逆に、通常盤よりプレスが後になれば、見本盤でも通常盤の初回プレスよりスタンパーが進むのだ。
これがボクの仮説である。
(詳しくは、https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2020-09-05をご覧ください。)

ボクの仮説では、プレスが後なら見本盤でもスタンパーが進んでなきゃおかしいのである。
では、この『ロンド』はボクの仮説が間違いだったことの決定的な証拠なのだろうか?

そうではないと思う。
というのも、この見本盤のPMにはGがついているからである。

下記サイトでは、このPMにG(ほかにKやWもある)がついているものについて、興味深い仮説を展開している。

https://ameblo.jp/bp-jrg/entry-12504720764.html?frm=theme

東芝は、創業時から埼玉県川口市にある川口工場でレコードを製造してきたが、71年に静岡県御殿場市に御殿場工場を新設したあとは、そちらがメイン工場となった。
当初は、川口工場で赤盤、御殿場工場で黒盤という役割分担があったが、赤盤が製造されなくなって、両工場ともに黒盤を製造するようになると、どちらで製造されたものかを区別する必要が生じたので、川口工場プレスのほうのPMにG(あるいはKやW)をつけるようになったのではないかというのだ。

この仮説、ボクにはかなり説得力があるように見える。
この『ロンド』についても、マクロ撮影したPMの画像をじっくりと見比べてほしい。
7のフォントが明らかに違っている。
これは工場が違うことを示唆していないだろうか?

通常盤が御殿場工場プレスであるのに対して、見本盤が川口工場プレスであるとすると、ねじれの理由も一応説明できる。

御殿場工場でメッキ処理が行われていたとすると、最初に作ったスタンパーを見本盤用に川口工場に送り、御殿場工場では、その後に作ったスタンパーで通常盤をプレスした。
川口工場では、見本盤の納期に合わせてプレスをしたので発売日当月プレスになったが、最初期スタンパーでプレスが行われた。

ってのがボクの推理なのだが、さて真相やいかに?
ラベル:オフコース
posted by 想也 at 22:18| Comment(0) | オフコース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月13日

『眠れぬ夜』のプレス時期を特定せよ

さて、考レコ学クイズ10の解答編である。

選択肢は次のA~Dの4つだった。

A.1975年12月20日リリースの初回盤。
B.1977年秋頃の再発初回盤。
C.1979年12月リリースの『さよなら』が大ヒットしたときの追加プレス。
D.1980年12月リリースの西城秀樹バージョンがヒットしたときの追加プレス。


まず、Aの初回盤ではないことは、最初の画像1ですぐにわかる。


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この緑色のCSは1977年頃から使用されるものだからである。
初回盤に付属のCSはこちらだ。


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それに、画像2ではレコード番号が映し出されている。
このETP-10301というレコード番号は、1977年の再発盤のものだ。


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初回盤のレコード番号は、ETP-20214である。

では、Bの1977年秋頃の再発初回盤かというと、そうではない。
なぜなら、画像3に映し出されているレーベルは、1977年にはまだ使用されていないものだからである。
この★が三つ並んでいるレーベルは、1977年時点ではまだ使われていない。


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1977年に使用されていたレーベルでは、★ではなく●になっている。


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これはレコード番号ETP-20214の初回盤のレーベルで、1975年プレスのものだが、1977年でもまだこのレーベルである。

ってことで、CとDにしぼられたのだが、ここからが問題である。

以前、この●リムから★リムへのレーベルの変遷について調べたことがあった。
下記の記事である。

https://sawyer2015.blog.ss-blog.jp/2019-10-27

この記事では、少なくとも1979年9月には●リムから★リムへと変更されたとという結論を導いている。

しかも、画像4に映し出されているスタンパーは、1S 19でかなり若い。


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これだけの情報だと、Cという結論を導きたくなる。

しかし、『眠れぬ夜』はスマッシュ・ヒットであって、大ヒットではない。
下記サイトを見ると、『眠れぬ夜』の売上は4.6万枚にすぎない。

http://www7a.biglobe.ne.jp/~yamag/single2512/offcose.html

スタンパー1枚あたり2500枚プレスできるとすると、4.6万枚なら19枚あれば足りる。
1S 19が最後のスタンパーでも大丈夫なんである。

それに、●リムから★リムへの変更時期だが、LPとシングルで同じとは限らない。
実際、シングルはずっと遅れて、1980年の3月に変更になったようだ。
少なくとも、1980年3月5日発売の『生まれ来る子供たちのために』の初回盤は●リムである。


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3月20日発売の甲斐バンド『ビューティフル・エネルギー』が★リムなので、このあたりが境目のようだ。

とすると、『さよなら』の大ヒットに合わせての追加プレスは、1980年1月おそくても2月だろうから、まだ●リムのはずである。

つまり、Cでもない。
ということは、Dである。

PMで確認しておこう。


20210312-5.jpg


0-68XYZって、「どんだけ使いまわすんじゃいっ!」ってPMだが、1980年12月のプレスであることがわかる。

ってことで、正解はDで、出題のレコードは、1980年12月リリースの西城秀樹バージョンがヒットしたときの追加プレスなのである。

●リムから★リムへの変更がLPとシングルで違うことはつい最近気づいたのだが、そんなこと、最初はまったく考えもしなかったよ・・・
ラベル:オフコース
posted by 想也 at 19:50| Comment(6) | オフコース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月31日

PMとスタンパーの微妙な関係

ここに2枚のオフコース『Three and Two』(EXPRESS/東芝EMI ETP-80107)がある。
正確に言えば、このレコード、5枚持っているのだが、そのうちの2枚だ。


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1枚のPMはこうなっている。


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9-9、すなわち1979年9月プレスということだ。
このレコードの発売日は1979年10月20日だから、9月プレスということは発売日の前月プレスで、正真正銘の初回プレスである。

このレコードのSide 1のスタンパーはこうなっている。


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スタンパーナンバーの3が薄くてちょっとボケているが、1S4 3である。
最初に切られたラッカー(1S)の4番目のマザーから作られたナンバー3のスタンパーということになる。
ちなみに、Side 2のマトもまったく同じ1S4 3だった。


では、もう1枚のほうを見てみよう。
PMはこうなっている。


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9-X、すなわち1979年10月プレスである。
つまり、発売日の当月プレスということになる。
ちなみに、この盤、珍しいことに、Side 2のほうにも9-Xという同じPMが打たれている。
両面にPMのある盤というのは初めて見た。

さて、では、スタンパーのほうはどうなっているかというと・・・


20201031-05.jpg


なんと、1S 1なんである!
これはSide 1のほうで、Side 2のほうは1S 10ではあるのだが。

スタンパー製造からプレスにいたる工程の詳細はわからないのだが、おそらく、製造されたスタンパーが次々とプレスにまわされるというよりは、初回プレス枚数から逆算した必要なスタンパー数+アルファをまず製造し、それらはまとめてプレス工程にまわされたんじゃないかと推測する。

そうだとすると、プレスのほうでは、いちいちスタンパーナンバーをチェックして順番通りに使うなんて面倒なことはしないので(その必要もないし)、スタンパーナンバーが進んだもののほうが先にプレスにまわされる、ということも起こるわけである。


さて、問題は音である。

PMが若いほうが音が良いのか、それとも、スタンパーが若いほうが音がいいのか。

もちろん初回プレスの間の差なので大差があるわけではないが、比べればわりとはっきりと違いがわかる。
要するに気のせいレベルの違いではない。

1S 1の盤のほうが、歪み感がまったくないからである。
1S4 3の盤は、ほんのわずかに歪み感を感じることがたまにあるのだ。
いや、まぁ、比べなきゃ絶対わからないレベルの話ではあるんだが(笑)

もっとも、これは、このレコードに限った話かもしれないので、すぐに一般化できるわけではないが、少なくとも音質に関する限り、ボクはPMが発売日前月プレスであることより、スタンパーが若いほうが有利な気がしている。

いや、でも、よい子はこんなこと気にしちゃいけませんよ(笑)


このレコード、個人的な思い入れはものすごく強い。
中学時代に出逢ったジョン・レノンの"Imagine"と、高校時代に出逢ったオフコースの「生まれ来る子供たちのために」は、その後のボクのものの見方や考え方に、ものすごく影響を与えたような気がする。


     ♪ ひろい空よ 僕らは いまどこにいる?
     ♪ 生まれ来る子供たちのために
     ♪ 何を語ろう?


久しぶりに完全休養がとれた週末、子供たちにどんな未来を残すべきなのか、そんなことを考えながらこのレコードを聴くのである。
posted by 想也 at 17:44| Comment(0) | オフコース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする